ワイヤロープの荷重と伸びの関係
ワイヤロープの荷重と伸びの関係は、ロープを回転しないように両端を固定して長さ方向に徐々に荷重(張力)を加え、ロープが破断するまでの経過を、縦軸に引張荷重、横軸に伸びをとることにより下図のようになる。
このような荷重と伸びの関係図は、一般に“荷重-伸び曲線”(stress-strain curve)または“荷重-伸び線図(stress-strain-diagram)あるいは“S-S曲線”と呼ばれている。
1.初期伸び
初期伸びとは、図のO-Dの部分をいう。初期伸びは、一般に新品ワイヤロープを使用するときの初期の段階で生じる。これは、新品ロープでは、“らせん状”の素線やストランドが、相互に十分な密着状態にないため、荷重が作用することにより密着状態(締まった状態)に至る過程で生じるものである。したがって、初期伸びは、荷重をとり去っても元にもどらない“永久伸び”となる。初期伸びは、素線数の多いロープや繊維心のロープほど大きく生じる。このように初期伸びは、ロープの構造によって変化するので“構造上の伸び”ともいわれている。初期伸びは、一般的にロープ破断荷重の約10~15%の低負荷領域で生じる。新品時のおよその値を示すと表のようになる。なお、初期伸びを少なくする方法に“プレテンション加工”があり、この加工を施すことにより初期伸び量は約50%程度減少する。
ワイヤロープの初期伸び(新品時の標準値) | |
構成記号 | 初期伸び(%) |
6×7 | 0.3 |
6×19 | 0.4 |
6×24 | 0.6 |
6×37 | 0.5 |
6xFi(29) | 0.3 |
IWRC6xFi(29) | 0.2 |
7×7 | 0.15 |
7×19 | 0.2 |
7×37 | 0.25 |
1×7 | 0.1 |
1×19 | 0.1 |
1×37 | 0.15 |
2.弾性伸び
初期伸びが除去されて、素線やストランドが相互に密着した状態のワイヤロープに荷重が作用すると、伸びは荷重に正比例して生じ図の直線ABのようになる。これを弾性伸びといい、荷重をとり去ると元の状態に戻る、いわゆるフックの法則(Hook’s Law)が成立する伸びとなる。弾性伸びは、初期伸びのような不安定な伸びではなく、荷重に比例するため次式で求められる。
⊿l= W・L/EW・A
ここに ⊿l:ロープの弾性伸び(mm)
EW:ロープの引張弾性係数(kgf/mm2またはN/mm2)
A :ロープの素線合計断面積(mm2)
W :荷重または荷重差(kgf またはN)
L :ロープの長さ(mm)
(注)1.EWは単にEで表されることが多い
引張弾性係数は単に弾性係数と呼ばれることが多い。
3.引張弾性係数
引張弾性係数(tensile elasticity factor)は、ワイヤロープの弾性伸びを算出するときに必要となる係数で、一般には、単に“弾性係数”または、“ヤング率”と呼ばれている。引張弾性係数は、図の直線領域ABの傾きdp/dl(荷重変化量に対する伸びの変化量)から、次式によって求められる。
EW=(dp / dl)×(L/A)
ここに EW:ロープの引張弾性係数(kgf/mm2またはN/mm2)
dp :荷重の変化量(kgf またはN)
dl :伸びの変化量(mm)
L :伸びを計測する標点距離(mm)
A :ロープの素線合計断面積(mm2)
引張弾性係数は、構成素線本数が少ないほど大きくなる。また同じ構成のロープでは、より長さが長いほど大きくなる。たとえば、同じ構成のロープでも、動索用(荷重のかかった状態で移動するロープ:running rope)と静索用(荷重のかかった状態で張られたまま取り付けられているロープ:standing rope)では、静索用のロープの伸びを少なくするため、より長さを長くするので、引張弾性係数が大きくなる。したがって、引張弾性係数を必要とするときには、当該ロープについて、係数を確かめた方がよいが、およその値を示すと表のようになる。
動索用 | ||
構成記号 | 炭素鋼ワイヤロープの引張弾性係数(新品時の標準値) | |
(kgf/mm2) | (N/mm2)※ | |
6×7 | 10,000 | 98,100 |
6x19 | 8,000 | 78,500 |
6x24 | 6,500 | 63,700 |
6x37 | 7,500 | 73,500 |
6xFi(29) | 9,000 | 88,300 |
IWRC 6xFi(29) | 10,000 | 98,100 |
静索用 | ||
構成記号 | 炭素鋼ワイヤロープの引張弾性係数(新品時の標準値) | |
(kgf/mm2) | (N/mm2)※ | |
7x7 | 12,000 | 117,700 |
7x19 | 11,000 | 107,900 |
7x37 | 10,000 | 98,100 |
1x7 | 15,000 | 147,100 |
1x19 | 14,500 | 142,200 |
1x37 | 14,000 | 137,300 |
※Sl単位で1N/mm2=1kgf/mm2×9.80665
(注)静索用の値の約95%が動索用の値となる。
(注)ステンレス鋼ワイヤロープの引張弾性係数は上表値の約 90%になる。
引張弾性係数は、プレテンション加工を施すことにより約 10 ~ 30%程度増加する。